Web3技術でVTuber市場を変える
ドコスタからスピンアウトした「Sound Desert」の挑戦!
クリエイターのデジタルコンテンツを企画から制作、販売までトータルで支援するサービス『Sound Desert』をリリースした株式会社CrossVision(以下、CrossVision)は、ベンチャーキャピタルのゼロイチキャピタルから出資を受け、2024年6月1日スピンアウトしました。CrossVision代表取締役社長の奥井颯平さんとゼロイチキャピタルの代表の種市亮さんから事業への思いや将来展望などを聞きました
登壇者
奥井 颯平
株式会社CrossVision CEO
2017年NTTコミュニケーションズ入社。
対話型AI事業の立上げとグロースを推進(現:AI suite)。ChatGPTの前身となるLLMの研究開発。テレビ局と連携したサービスへの導入やweb3技術のメタバース導入支援、VTuberのキャスティング/企画を担当。ドコモループ新規事業コンテスト「Zero One Drive」で優勝。音楽NFTマーケットプレイス「Sound Desert」の開発/運営。docomo STARTUPの制度を利用し、『Sound Desert』でドコモからスピンアウト。
種市 亮
ゼロイチキャピタル 代表パートナー
2011年10月楽天株式会社に入社。2016年10月インベストメントカンパニーに異動し、新設のCVC部門である楽天キャピタルの立ち上げに従事。1年半で2社に投資実行。
2018年4月独立系ベンチャーキャピタルのインキュベイトファンドへ参画。アソシエイトとしてパートナー村田 祐介と共に幅広い業務に取り組んだ。
2021年6月にシードステージのスタートアップを支援する独立系ベンチャーキャピタルのゼロイチキャピタルを設立。
SELF INTRODUCTION
──最初に自己紹介をお願いできますでしょうか?
奥井さん(以下、奥井さん):NTTコミュニケーションズ入社後、生成AI技術の研究開発に従事してきました。生成AIの黎明期からエンタメ領域へのAI技術適用を推進してきました。ドコモグループの新規事業開発プログラムで「Sound Desert」が優勝した事をきっかけに専門領域をweb3と新規事業開発に拡張して活動しています。現在は株式会社CrossVisionの代表として「Sound Desert」の運用を通じてVTuberを中心としたクリエイターのデジタルコンテンツを企画から制作、販売までトータルで支援しています。ゼロイチキャピタルにはリードVCとして出資をいただきました。
種市さん(以下、種市さん):楽天株式会社入社後、楽天市場出店のコンサルティング業務に従事したのち、CVCである楽天キャピタル創設に携わっていました。その後独立系ベンチャーキャピタルのインキュベイトファンドに参画しました。アソシエイトとしてパートナーの村田祐介氏と共に新規投資先の発掘から投資後の支援まで幅広い業務に取り組みました。その後、2021年にゼロイチキャピタルを設立しました。
INTERVIEW
INTERVIEW 01
「Sound Desert」の発想が生まれたきっかけ
──「Sound Desert」のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
奥井さん:「クリエイティブの世界でチャレンジする人を応援したい」という気持ちから、アイデアを考えました。私はプライベートで、イラストを中心としたクリエイター活動をしてきました。まだイラスト作家として大きな成功を残せていないですが、クリエイターをサポートした想いは常に持ち続けています。
一方、新しい技術が好きで、2018年ぐらいからすでに、暗号通貨やNFTに興味を持ち、プライベートで触っていました。自らのコンテンツをNFT化して、販売もしていました。NFTを直に触れる中で、デジタルコンテンツとNFTの親和性が高いことに気づき、Web3やメタバースの領域が今後成長すると確信しました。
常に持ち続けていた「経済的な理由で活動を断念してしまう」クリエイターの課題を、NFTで解決できないかと考えました。Web上でコンテンツや配信を通じて、クリエイターを中心とするコミュニティを活性化させるしくみをつくることで、クリエイターの経済的課題を解決できるという仮説から、「Sound Desert」のアイデアは生まれています。
──途中で失敗や諦めたいと思ったことはありましたか?
奥井さん:市場全体でNFTに対する興味が薄れた時、あらためて事業方向性を決断する必要がありました。当初、NFTに興味を示しているユーザー向けに事業検証を行っていましたが、実際にNFTを購入していたのはアーティストのピュアなファンではなく、NFTに投機的な期待をしている方層が多かったです。そこで改めてアーティストやクリエイターに焦点を当て、彼らが持つコミュニティを活かしたビジネスモデルに集中することにしました。
一方で、「Sound Desert」のサービス提供価値に自信を持っていました。B2Bにおいてはヤマハ株式会社が開発・提唱する「SoundUD」やMONSTER baSHと連携して、イベントでNFTを配布し、限定コンテンツを提供する新たな価値を提供することができていました。NFTを用いてエンタメ領域で価値を創造することおいては、実力と実績の両方で、他に負けていないと思っています。
NFT市場が冷え込んできても、事業を諦めずに継続するという決断ができたのは、日本トップクラスの音楽フェスでNFTを配布したことによる実績に裏付けられた自信があったからですね。
INTERVIEW 02
「柔軟性」と「チャレンジ精神」が投資の決め手に
──種市さんは投資先を決める際に、どのような基準で判断されましたか?
種市さん:私が投資先を選定する際に重視するのは、「起業家の柔軟性とチャレンジ精神」「マーケットの仮説」「事業の仮説」の3点です。これまでの経験から、「このターゲット顧客を対象に事業を進めても未来がないこと」や、「マーケットの競合や大企業の参入で市場環境が急変すること」に何度も直面したことがあります。シードフェーズで投資する以上、それらは失敗には入らないと考えています。成功するまで取り組み続けられる柔軟性とチャレンジ精神を持っているかどうかが見極めるポイントですね。
──投資先に求める柔軟性やチャレンジ精神について詳しく教えていただけますか?
種市さん:企業家やチームが市場の変化や課題に対して素早く対応できるかどうかが重要と考えています。柔軟な発想や意思決定の速さが成功への鍵を握ります。また、自らプロダクトを作り、それを改善しつつ市場に出す姿勢を持っているという人・企業に投資をしたいと思います。
──最後に、CrossVisionへの投資を決めた理由を教えていただけますか?
種市さん:CrossVisionに投資を決めた理由は、奥井さんの人間性と事業の成長性に魅力を感じたからです。NFT市場は先行き不透明な状況です。NFTを活用しないといといけないユースケースは、まだ出てきていません。それを見つける必要があります。積極的にチャレンジしながらも、適切に見切りをつけ、事業を変更しながら進める柔軟性が必要です。奥井さんはその両方をお持ちだと感じました。
また、早期に事業の可能性の検証が行われていたことは、魅力に感じました。2023年は、既にNFT市場は衰退期にあったと思います。その中にも関わらず、他の企業とコラボをしながら、大きなトラクションを作ったのは、すごいと思いました。シード段階であるにも関わらず事業として立ち上げられる可能性を示す検証を重ねた姿勢も評価し、投資を決定しました。
INTERVIEW 03メタバース/web3時代のAmazonを目指して
──CrossVisionの今後の成長戦略は?
種市さん:「Sound Desert」はNFTマーケットプレイスだけでなく、クリエイター向けのデジタルコンテンツのマーケットプレイスになりうる側面も持っています。私は特に後者の方に注目しています。VTuberの収入源として、物販による収入が非常に大きい割合を占めています。大手VTuber事務所の売上全体においても半分近い割合となります。しかし、大手VTuber事務所に所属している人しかグッズによる収益構造を最適化できていない現実があり、「Sound Desert」がこの構造を変える可能性があります。
「Sound Desert」では、中小規模の事務所所属VTuberや個人VTuberが、物販やデジタルコンテンツを作って配信して収入を得られるだけでなく、彼らがファンと直接的なコミュニケーションをとり、ファンのエンゲージメントも高められる相乗効果のあるプラットフォームだと思っています。引き続き、それを作っていけるように一緒に考えていきたいです。
奥井さん:そうですね。「Sound Desert」はこれまで音楽を中心に取り扱ってきました。しかし、現在多くのミュージシャンがグッズ販売を収益源にしていること、VTuberにおいてもグッズ収益の割合が大きいことから、引き続き音楽を軸足にデジタルコンテンツを幅広く取り扱うサービスにシフトしていきたいと考えています。
デジタルコンテンツにはNFTならではの付加価値をつけることができるので、現在のweb3に対する投資的な期待に答えながら、クリエイターのデジタルコンテンツ販売が伸びるというような相乗効果を作っていきたいです。
──CrossVisionのめざす先は?
奥井さん:事業を通してメタバース/web3時代のAmazonをめざしたいと思っています。メタバース上のプラットフォームの実現により、物販で発生する在庫コストや流通コストをかけず、デジタルで販売できるようになります。将来的には、日本が目標としているクールジャパンコンテンツを、世界に届けることも実現できると考えています。
「Sound Desert」は、作家やクリエイターとの共同作業を通じて、より魅力的なサービスになると考えています。まずは、デジタルグッズ販売やメタバースでの活動と相性が良いVTuberをイノベーターとしてプロダクトを磨き込んでいきたいと思っています。
INTERVIEW 04docomo STARTUPについて
──docomo STARTUP制度を使ってみて、いかがでしょうか?
奥井さん:私は本当にありがたい制度だと感じました。転職や退職を経てスタートアップにチャレンジすることは時間的にも精神的にも負担が大きいです。しかし、docomo STARTUPがあったことでドコモの組織に貢献することと、スタートアップでの起業家としてのチャレンジを両立することができました。組織へのコミット思考が強い大企業の優秀な人も前向きにチャレンジできる素晴らしい仕組みです。
──ベンチャーキャピタルから見て、docomo STARTUPにはどんな印象を受けますか?
種市さん:確かにそうですね。私は様々な会社のスピンアウトを支援するプログラムを見てきましたが、ドコモの取り組みが一番優れていると思いました。まず、スピンアウトの前段階のマインドセットからきちんとプログラムを設計しているところは見たことがありません。マインドセットの後には実際に事業化のためのプランニングを行い、その過程を経て優れた事業案に対してはドコモからの出資が行われるというのは、これ以上なく新規事業にチャレンジしやすい環境だと思います。また、事業オーナーが株式を大部分保持して事業が進められ、スピンアウトした後も、適切なサポートを受けられるのは魅力的です。